左右非対称の城
姫路城は白くて翼を広げた白鷺のようだと例えられ、この岡山城は対照的に真っ黒でカラスが翼を広げたようだということで烏城と呼ばれている。
現在の岡山城は昭和四十一年に復元されたものだ。ちなみに日本各地の名城のほとんどが昭和の復元であることが多い。勿論すべてではなく火災などによって焼失したものもあるが、その大半の理由は太平洋戦争にあるといっていい。日本の主要な都市はアメリカ軍の空爆によって破壊され、焼け野原になった。市民を無差別に攻撃し、何万、何十万人もの無垢な尊い命が失われた。城や町もしかりだ。まことに痛ましく残念でならない。
そんな中、奇跡的に築城当時のままの建造物がある。月見櫓である。よくぞ残っていてくれたとその頭を撫でたくなる。三階建ての小さな月見櫓だがよく見ると二階には石落としがあることが分かる。つまり、この月見櫓もいざというときには防御する櫓としての機能を持たせているのである。風流と戦闘、両方を兼ね備えているところが戦国時代の趣をそのままに残していると言っていい。
岡山城の特徴としてよく言われることは見る角度によって表情が違うと言われることである。これは比喩表現ではなく本当に見る角度によって様々な顔を持っている。それはなぜか。他の城との決定的な違いは城が左右非対称になっているからだ。よく見てほしい。屋根の形も曲がり方も破風もすべてが異なっていて揃っていない。複雑で統一感がないのである。ではどうしてそんな歪な格好になったのか。それには足元の石垣を見るとヒントが隠されている。石垣をぐるっと一周してみると角が五個あることに気が付く。つまり台座が四角形ではなくて歪な五角形となっているのだ。だから石垣の角がよく見る通常の石垣の角よりも鈍角になっていることが分かる。実はこの辺りには花崗岩の岩盤があり、その頑丈な岩盤を利用してその上に作られているのである。当然石垣も花崗岩である。だからあっちもこっちも立派な石垣だらけだ。
それでも城自体は左右対称の整った城を作ることもできそうだが、これは私見であるがあえて左右非対称の美というものを表現したのではないか。そんなふうに思います。